協会は設立20周年を一つの通過点として、新たな20年に向けて歩み出した。そこでこの節目の機会に、理事会の諮問を受けて、事業運営会議を中心に約1年間に亘って今後の協会の進むべき方向について検討を進め、検討結果を「中期計画」(平成27年度から平成29年度)として取り纏めた。
これに基づき、その初年度となる平成27年度は、協会の目的である鉄道の安全確保と運営改善の推進に寄与すべく、これまで推進してきた各種施策の充実強化を図るとともに、新しい切り口での取り組みを逐次具体化し、会員にとってより魅力度の高い協会へと成長するよう努めた。
収支面では、平成27年度は前年度に比べ受託研究は減少したが、会員増強キャンペーンキックオフを平成27年5月に行い会員増強による収入増に努めた。また、車両用材料燃焼試験事業、機械関係技術認定試験事業についても、前年度に比べ増収となった。一方、支出面では会員サービス強化に要する諸経費の増、消費税引き上げ後の関連物価上昇の影響、「車両安全技術委員会」の新設や「中期計画」の課題検討のための体制強化等に伴い経費増となったが、併せて経費節減に努めた結果、約190万円の黒字を計上することが出来た。
良質な会員サービスの提供のためには健全な財政基盤が不可欠であり、これを維持し強化していくため、平成28年度においても更に一層の収入増と経費節減に努める。
以下に平成27年度に当協会が実施した事業等の概要を記す。
「中期計画」に基づき、専門的かつ継続的に車両に関する安全問題を議論する常設委員会として、平成27年9月に「車両安全技術委員会」を新設し、活動を開始した。
「中期計画」の検討過程において、協会に対して会員から多くのご要望が寄せられている技術継承のための教育訓練プログラムの内容等について、理事会の諮問を受けて事業運営会議において俯瞰的に検討を進めた。平成28年度についても引き続いて検討を深度化させる。
本部、支部一体となって、平成27年度から2年間に亘り「会員増強キャンペーン」を展開して新たな会員の入会慫慂に積極的に取り組み、会費収入比率の改善を目指すこととした。その結果、平成26年度末に比べて個人会員については約400名の増となったが、団体会員については微減となった。
これに対応して、前期より開発を進めてきた「会員台帳・会計処理システム」を新たに導入するとともに、「職場相談員委嘱規程」を制定し、個人会員の皆様と協会との重要な橋渡し役を務めていただいている「職場相談員」の制度確立を図った。
車両関係技術認定試験受験者のデータベース構築およびプラスチックカード化認定証発行等の支援システムについて開発を進め、本格的に導入した。平成28年度は引き続いて機械部門に展開をしていく。
平成27年度は、理事会から「協会の財務基盤の健全化方策」および「技術継承のための教育訓練プログラム等」の2つのテーマについて、「事業運営会議」へ諮問し検討を進めた。
道における安全・安定輸送が強く求められる中、車両関係における調査研究としては、これまでも品質向上と技術継承を主要なテーマとして取り組んで来ている。
平成27年度においては、車両委員会の下に「技術の展開部門」を創設し、新たなジャンルの課題として、車両用検修設備設計マニュアルの作成に取り組むための「準備調査会」を立ち上げ取り組んできた。また、従来から取り組んでいる課題を持続的に確実な成果に結びつけていくと共に、関係個所から期待される諸課題にも積極的に取り組んできた。
加えて、新たに策定された中期計画に基づき、「車両安全技術委員会」を立ち上げ、その委員会の事務局を平成27年度は車両部が担当し、平成28年度に新規に設立される「安全技術部」へのスムーズな移行に向けて活動を展開してきた。
なお、車両関係における中期的な調査研究の進め方については、前年度までに平成27年度から平成29年度までの3年計画を策定している。
近年、鉄道において安全性、快適性、バリアフリー、環境問題等に対する社会的ニーズが非常に高くなってきており、ホームドアや昇降機、空調等の機械設備が加速度的に増加している。今後も東京オリンピックに向けて、機械設備(ホームドアの整備等)の大幅な増加が見込まれる。
一方で設備の老朽化や設備増に対応して効率的なメンテナンスのニーズが一段と高くなっている。
また、平成26年度から昇降機に耐震対応が求められ、新設のエスカレーターについては、設置基準等が示されたが、既設の更新時期を迎えるエスカレーターについては、具体的対応が現在示されてない状況であり、課題となっている。
このような中で、機械委員会では、中長期のビジョンを作成した。
鉄道における機械設備は、その使用条件・施工条件などで特殊な場合が多く、システムの最適化や効率的なメンテナンス、マネージメント等の成果を上げるには、鉄道事業者、メーカー、工事・サービス会社間の連携が不可欠の状況になっている。そのため、従来から機械委員会において各技術小委員会を設置して、分野別に検討を進めることによって課題解決に一定の成果を出してきているところである。
平成27年度は、常にお客さまや社会のニーズに対応していくことを念頭に、機械委員会の下で策定された中長期ビジョンに沿って、以下の活動を実施した。
また、その中期ビジョンに基づき、平成27年度からの3年間を対象とした調査研究活動の中期計画(基本的考え方、実施件名(案)等)を策定した。
平成27年度は、貨物技術委員会の下でJR貨物社員に対し、
・協会への入会
・協会主催研究発表会への応募・参加
・貨物技術委員会委員、作業部会委員、事務局相互の意見交換
等を慫慂し、臨海鉄道を始めとするJR貨物の関連会社にも協会への入会を慫慂した。
また、以下の活動を実施した。
平成27年度の主な受託調査研究は、以下のとおりである。
鉄道に関する技術基準の見直しに関して、平成26年度に引き続き、平成27年度も公開競争入札に応募し、2件名について受託することができた。
これを受けて、有識者や鉄道事業者からなる2つの検討作業部会「車両関係:電気車」、「車両関係:気動車」を設置し、基準の運用状況をアンケート等で調査するなどの作業を進め、その結果を報告書として提出し完了することができた。
JR北海道、東日本、西日本、四国、九州各社で将来のエンジン・変速機の解体検査周期延伸を行うため、平成22年度から技術検証等を行う検討会の事務局業務を受託運営してきている。
平成27年度も、平成26年度に引き続き、気動車のエンジン・変速機の検査内容を見直すために、有識者やJRの実務者からなる評価委員会を1回、幹事会を1回、事務局会議を6回開催し、試験車のデータ収集等による現状分析や評価方法等を検討し、今後の試験終了に向けた方向性について一定の検討結果を得ることができた。
今後の車両技術開発を展望して、車両の電子化、情報化の進展に伴い、車両の設計、製造、運用、メンテナンスにどのような課題が発生するか、また、それらに対してどのように対応していくべきかについて、3年計画で体系的に取りまとめを進めて来たが、平成27年度はその2年目として、執筆の分担や主な内容等についての検討を進めてきた。
昨年度に続き、鉄道駅設備の安全性向上・コストダウンを目指した今後の鉄道駅設備のメンテナンスのあり方についての研究を行った。出改札機器に関しては、機器から得られる監視データや点検・修理・予防保全措置等に関する過去のメンテナンスデータを分析し、効果的な予防保全方式を検討した。また、昇降機に関しては、合理的なメンテナンスの実現のためのデータ活用の方法を検討し、そのために必要なデータの取得・蓄積方法の検討を行った。
国内外のロボット技術の最新事情を調査し、鉄道駅構内におけるロボット技術の利用可能性を多角的に検討して、具体的な提案を行うための基礎資料を整備した。
具体的な調査項目として、鉄道関係者によるブレーンストーミングを実施し、アイディアを収集し、ロボット開発者等有識者へのインタビューで鉄道駅構内に導入可能なアイディアを聴取した。
以上から詳細検討すべき利用場面の絞り込みを行い、利用可能性の検討(技術面の裏付け調査、導入時の課題整理等)を行った。
貨車の検査成績表は各支社、各現業機関により作成されているが、それぞれ得意分野と不得意分野があり統一されたものになっていない。そのため、何処で検査したものも、誰が見ても判るように統一した検査成績表の作成について前年度に引き続き取り組み、構造別に2種類の表の作成を考えていたが、JR貨物の要望を受け、形式別に3種類の表を作成することとし、2形式のものを作成した。
平成27年度は、車両関係で1,515名、機械関係で3,937名の受講、受験が行われた。
平成27年度には、さらに公正性を高める観点から、車両関係の試験実施方法細部について見直しを図った。
また、平成26年度から技術認定試験受験者のデータベース構築、技術認定業務の正確性向上、受験各社様へのサービス向上等を目指した。車両関係技術認定試験事業支援システム構築を進めて来たが、平成27年度から本格的に導入した。これに伴い紙製であった認定証についてもQRコード・顔写真入りのプラスチックカード化を図った。加えて、車両関係の稼働状況を見極めつつ、機械関係の技術認定にも展開を図るため、検討を開始した。
この数年、鉄道車両用材料燃焼性判定試験の依頼が増加傾向にあり、平成27年度は1,789件(コーンカロリーメータによる試験97件を含む)と過去最高の受託件数となった。
研究発表会は2月25日、26日に開催された。
JR3島各社をはじめ、公営・民営鉄道及び関連グループ会社、関連メーカー等従来あまりご参加をいただけていない多くの会員会社の方々に、より多く参加していただける発表会とするため、「応募しやすい、参加しやすい研究発表会」を目指し、改善を図った。今年度から新たな方式として3部門方式とし、「安全・故障防止対策部門」の32件、「技術開発・サービス向上部門」の34件、及び「作業改善・提案部門」の19件、3部門合計84件の応募論文中から、「安全・故障防止対策部門」「技術開発・サービス向上部門」の各10件、「作業改善・提案部門」の7件の、27件の論文が発表された。
昨年度に引き続き国土交通省の後援を得つつ、3部門を通じて最も優秀な論文には「鉄道局長賞」を、それに次ぐ他の2部門の最も優秀な論文には「会長賞」を授与したほか、優秀賞3件、優良賞4件及び特別賞3件などが授与された。
併せて、特別講演会を開催し、近畿車輌㈱代表取締役社長森下逸夫様から「今後の鉄道車両業界と当社の生きる道」と題してご講演をいただいた。
鉄道固有技術及びその周辺技術に関する9テーマについて、9月から12月まで計4回開催し、日立製作所、東京地下鉄、鉄道総研、JR東海、JR東日本、小松製作所、オムロンソーシアルソリューションズ、JR貨物、東芝の皆様からご講演をいただいた。また、1月には関西地区においても開催した。聴講者は延べ380名であった。
鉄道事業者及びその協力会社の若手機械関係社員12名が参加し、企画力育成を目指した「機械技術セミナー」を開催した。
鉄道設計技士(鉄道車両部門)試験の受験準備を目的に、分野別専門講師による講習会を7月25日に開催した。受講者は45名と多数のご参加をいただいた。
平成27年度は、ヨーロッパの鉄道駅における機械設備の状況、バリアフリー対策、ユニバーサルデザインなどの調査に重点を置きつつ、車両関係の調査も併せて実施した。訪問箇所はデンマーク、スエーデン、オーストリア、フランスで、10月7日から16日まで10日間の行程で実施した。参加者は20名で、その結果は11月の理事会に報告するとともに報告書にまとめた。
昨年度に出版した「鉄道電気車両主回路シリーズ(集電装置編)」について、著者自身による研修会を関東で10月及び関西で12月に各1回開催し、合計56名の方にご参加いただいた。
多くの会員からの「メーカー会員企業の技術情報発信」の要望に応えるため、初の試みとして定時総会に併施する形で「ポスターセッション」を開催し、15社からパネル38枚の出展をいただき、多くの方にご来場いただけた。
幅広い読者層に親しまれる技術専門誌として、新しい研究開発の紹介や技術解説、現場で取り組んでいる諸課題などを掲載し、充実した内容、判りやすい記述、タイムリーな情報掲載に努めた。
また、会員に、より読まれる会誌とするために、メーカー各社、公民鉄各社、メンテナンス各社等からの記事による特集記事、企画記事を随時計画した。併せて、読者に対する提供情報量拡大の観点から、広告掲載の拡大に努めた結果、北陸新幹線特集及び新春座談会などに協賛する形を含めて、多くの企業に広告を掲載していただけた。
平成27年6月18日の定時総会開催日に、平成26年度表彰として、片方 威氏に特別功績賞を贈呈するとともに、功労賞20名、功績賞5名、優秀技能賞30名の方々と、「R&m」の平成26年中の掲載記事の中の優秀賞5件、特別賞2件を表彰した。
また、平成28年3月23日に開催された表彰選考委員会で、平成27年度表彰として、竹内 清氏、菊池 孝氏、白川 保友氏、佐野 守彦氏、橋本 常正氏、有馬 一堯氏に特別功績賞を贈呈するとともに、功労賞20名、功績賞5名、優秀技能賞30名の方々の表彰が決定した。また、平成28年3月のR&m編集委員会で、平成27年の「R&m」掲載記事の中から優秀賞5件、特別賞2件が選考された。
これらの方々に対する表彰は、平成28年度定時総会後の表彰式で行う。
なお、平成27年度の全国「車両と機械」研究論文発表会における優秀論文の表彰は、平成28年2月25、26日に実施された発表会後に実施済である。
平成27年度首からは「鉄道工場」「車両と機械」「R&m」全誌を本文まで検索・閲覧可能とする機能拡充を行った。
加えて、平成27年12月からは、平成27年度定時総会時の「ポスターセッション」で紹介された各社の技術についても電子図書館に収納し、全員の皆様にいつでも、どこからでも、閲覧して頂けるようにした。
また、全国「車両と機械」研究発表会論文集及びJRMA海外鉄道調査団報告書を平成28年度首から閲覧可能とするための準備を進めた。
平成28年3月末現在の団体正会員は910社(対前年6社減)、個人正会員は7,207名(対前年376名増)となった。